Interview
田七人参に限らず、社会問題の何を解決できるかを考える。
一から素材に関わり生産することから社会貢献をしていく。
株式会社 アドバンス 代表取締役
白井博隆
お客様と社会に貢献するものづくりとは何か?有機田七人参栽培のパイオニアであり「白井田七。」の開発者、白井博隆に、
アドバンス設立30周年記念インタビューを敢行。これからの未来に向けた取り組みと、構想する田七人参の未来像を聞きました。
自分がやるなら安全な農業を創りたい。
——田七人参の栽培を始めたきっかけ
94年に仕事で中国に行った時に、初めて田七人参を知りました。誘われるまま畑を見に行くと、当時はまだ農薬や殺虫剤まみれのずさんな栽培が行われていました。それを目の当たりにして「これは自分が関わってやるべき仕事だ」と思いました。古くから健康に役立てられてきたものだからこそ、安全で高品質な田七人参を作りたいという気持ちになりました。
そう思えたのは、私が農家の子どもで幼い頃から畑に関わっていたことが大きいです。うちはリンゴ農家でしたが、リンゴを育てる中で農薬を撒くことが⼤きな要素ではないか?と思うこともありました。その体験から、もし自分がやるなら安全な農業を創りたいと思っていました。
中国でも田七人参の栽培は難しく、「出来ない」と言われてきたのですが、自分だったら出来るだろうと思えたのです。若い時の方が、物事を難しく考えなかったですね(笑)。
知らない土地で見たこともない植物を、誰の支援も受けずに一から始めるのは無理ですが、中国では古くから栽培されているしプロもいるので、そこに私が考える安全性や品質を持ち込めば成立すると強く思いました。今だったら栽培の構造や苦労もわかるので、もう1回やれと言われたら「無理だね」と言います(笑)。
田七人参は、自分に「飲め」と言われているように思えた。
——田七人参に興味を持った理由
26歳の時にダンプカーに正面衝突をされ、胸部の骨折と内臓破裂寸前という大怪我をしました。医者からは「今日がやま場です」と診断され、その時に「ひどく肝臓の数値が悪い」と言われたのが今も残像として強く残っています。中国で田七人参の効果を聞いたとき、まるで自分に「飲め」と言われてるように思えました。
事故後は10日間の絶食を強いられ回復食の重湯を飲んだら、グラグラとめまいがして生まれて初めて血糖値が上がる経験をしました。口から摂取する食べ物がこんなにも身体に影響するのかと知りました。そういう出来事の積み重ねで、健康と食べ物の大切さを身をもって経験しました。この仕事をしているのも、それらのことが影響をしていると思います。何の問題もなく普通に健康でいたら、ここまで深堀りが出来なかったでしょうね。
あとは近所の農家の方々が健康被害に遭われたことも影響していると思います。今では考えられないですが、当時はマスクだけで農薬の散布をしていて、がんで亡くなる方が多かったのです。今は機械で散布が出来るので3~40年前と比べたら残留も少なく、生分解できるものが開発されています。農薬をかけていると言っても微量には出るけど、おだやかになっています。
これは考え方が分かれるところだと思いますが、自分たちで食べるものには農薬をかけないで、出荷するものだけ「残留も少ないし影響力も少ないなら農薬をかけよう」とはならない。お金をいただく以上自分がそう思うなら、お客様にも安全なものを提供しないといけないと思います。
多くの人たちに喜ばれ、役に立てるものが田七人参なら、
ちゃんとしたものを作る。
——今のアドバンスの核となっているもの
「栽培に対する探究心」と「安全性に対する使命感」というのがあります。それが続いているからこそ、未来の田七人参をさらに安全に品質を高くしたいという想いに繋がっています。これからの未来に続いていく本当にシンプルなところです。
例えば、新種の田七人参を作るとか100倍大きいかぼちゃみたいなものを作るとかではなく、小さくなってもいいから「本物の田七人参を作りたい」と思っています。25年前に栽培を始める時に考えていた「品質が高くて多くの人に喜ばれ、役に立てるもの」それが田七人参であれば、ちゃんとしたものを作りたいという想いがこれからも続いていくんでしょうね。
⼈の⼿で育つのではなく、⾃然環境に⾝を置き、
⾃⾝の⼒で成⻑していける⽥七⼈参を再現する
——有機栽培を確立した先の「本物の田七人参」とは
今の有機栽培においても、100%というものはないと思っています。自分たちが満足する田七人参が100点だとすると、いま点数をつけるなら60点ぐらいです。
あくまでも有機認証を取得するのは通過点であり、当然のことのように越えなければいけないことだと思います。そこを起点として未来の話をすると、有機認証を取得した「本物の田七人参」とは何か?を考え続けそこに近づけるために、今は「天然型の田七人参」ではないかと思います。
人間の都合によって量産されるものでもなく、いっぽうで人間が植物を守りすぎるものでもない、⼈の⼿で育つのではなく、⾃然環境に⾝を置き、⾃⾝の⼒で成⻑していける⽥七⼈参を再現することこそが、最大限の能力を持った田七人参の育成に重要であると考えています。
人間だったら、生まれて何ひとつ困らず、苦労もせず、嫌なこともない、それではたぶん使い物にならない、何も成長がないですよね。人と関わって様々な感情を味わい、負荷のかかるところを乗り越えていく。頭で考えるのではなく、生きていく上でやらなくてはいけないからやる。
植物だってまったく同じだと思います。日は当たりすぎない、雨風も当たらない、寝て待っていれば栄養はたくさんもらえる。これが人間だったら、ダメになってしまいます。田七人参からしたら「人の手によって作られてきたのに、いまさら苦労させるなよ」となるかもしれない。
本来の田七人参の姿に戻し摂取することによって、田七人参の持つ力を最大限に得られるだろうと仮説ですけど、感覚的には絶対間違っていないと思っています。
どうやったら良い田七人参が出来るのか、毎日1回は考える。
栽培に責任をもって関わり続けていく。
——毎年、課題は変わっている?
栽培において出てくる課題は、毎年違います。天然型の田七人参栽培に取り組み始めて5年ほどですが、目に見えてこれは収穫できるとなってきたのは2年前位からです。最初は難しいとなっていたが、最近では「ひょっとして収穫できるかも」というように変わってきました。
今後は人材育成に力を入れ、天然型の栽培を進めて行きます。コロナもありストップしていますが、現地の農業大学を卒業した若手を育成し、畑をまわりながら指導を行っていく計画をしています。販売で上がった利益は未来の田七人参への投資にまわし、今取り組んでいる研究開発を拡大していきたいと思っています。
想像した未来を現実化していくために、今後も栽培にコミットして責任をもって関わり続けて行こうと思います。
——変わっていないところは?
どうやったら良い田七人参が出来るのか、この1点だけ、今でも考え続けています。毎日1回は考えますね。我々は、田七人参に対してどういう栽培をしたら良いのか、どんな田七人参が良いものなのか、貢献できる田七人参とは何なのか、これらを常に考え続けていなければ事業も終わると思っています。社内でも共通意識として日頃から確認しています。
——本物の田七人参」完成形は頭の中にある?
あります。今まで一般的に良い田七人参と言われてきた、7年物が良いとか、20頭30頭(サイズ)が良いと言うのは栽培者の目線じゃないですか。でも、田七人参を摂取する必要性に迫られた人たちは別に大きさとか、年数とかにはこだわらず効果を示してくれれば良いと思うんです。市場に対するの田七人参の声ではなくて、商業的な側面で田七人参の価値を決めているわけですよ。こういう部分は、あと10年~20年位でひっくり返さないといけないと思っています。
どう変えていくのかは、田七人参に対する価値を持ち続け、田七人参がどういうものでなくてはならないのかと、意識や興味を持ち続けることだと思います。
生産地全体の環境を変えていくと、競争が起こり
さらに良い品質の田七人参ができる。
——生産地への地域貢献(生活・教育・栽培技術提供など活動について)
品質の良い田七人参を欲しいと思えば、生産地全体が成長しないと良い田七人参は出来ません。周りが農薬を使用した、どうにもならないような生産をやっているとして、その中の1人だけが世界に誇れる安全性の高い農業をやろうとしてもできないです。地域全体が新しい栽培方法に向かっているからこそ、活性化して同じ製品や原料で競争が起こります。競争が起こると意識が高まって全体に影響するのです。
安全性が高く品質の良い田七人参を生産するという競争がベトナム国境に近い中国の辺境地で行われています。これが重要で、うちだけが特別で、他のものは全部ダメというのは、やがて信頼性に乏しくなります。本当にそうだったら「何で周りはやらないの?」と疑問に思うはずです。
田七人参で有機認証を取得するのは、今ではそんなに難しいことではありません。有機認証が意外とデフォルトに近い状況になっているので、皆が有機栽培の田七人参を仕入れることができます。
ただ、我々は田七人参を得ることが目的ではありません。有機認証を旗印に買ってもらいたいわけではないのです。意識はさらにその先にあって、有機認証を取得したうえで何を目指すのか、未来の姿が明確になっているからこそ、皆さまに選択していただけていると思うのです。
もし日本中の田七人参が無農薬原料になったとして、我々がその状況下で⽀持をしてもらえるかどうかという事です。⽀持をしてもらえなければお客様に対して未来を見せられなかったし、品質の違いを示せなかったということだけだと思うのです。しっかり未来を見据えて自分たちにしかできないことをやり続けていれば、焦る必要はないと思っています。
他⽅を⾒渡せば、⾃社の製造⽅法を希望する他社に教え、共に市場で競いながらそのジャンルの市場を⼤きく成⻑させているものがあります。
これと同様にコンペジターをつくることで、自分たちが自己成長を止めることのないような環境に身を置くことも大事だと思います。生産地全体の環境を変えていくと、競争が起こりさらに良い品質の田七人参ができるようにブラッシュアップさせていくことに繋がるのです。
解明されてない部分を研究して「本物の田七人参」を
再現していくことが未来のビジョン。
——未来の田七人参について
田七人参が、今後どうあるべきかを常に考えています。最終的には、田七人参を自生の状態に戻してあげるというのが、最大の目標です。
第一歩として「天然型」の栽培を行っています。しかし自然の状態に近づけ過ぎて、過酷な環境にすることで、天然型の田七人参を収穫できても「身体にとって有効なものが出来るのか?」という課題もあります。未来の在り方は、想像するだけで簡単に完成するわけではありません。だからこそやるべきだと思うんです。
田七人参の有機栽培のときも、誰もやりたがらないことを超えてきたわけです。昔はひとりでやってきたことを、いまは多くの人に共感していただき支えられている、時間はかかるかもしれないけれどやっていけるのではないかと思います。
未来の在り方は「世界に誇れる田七人参とは一体、何なのか?」というカタチのなかったものが、だんだんと輪郭が見えてきている感じです。それはサイズが大きいものや長期栽培をするのではなく、田七人参がどういう理由で生きて薬効効果を持つのか?など、詳しく解明されてない部分を研究して理解しながら「本物の田七人参」を再現していくというのが未来のビジョンです。
「田七人参とは何なのか?」ということに、誰も正確に回答できないくらいに謎が多い植物です。エビデンスの取り方とか、まだまだ解明されていない部分も多いのです。
田七人参のことをもっと知りたいという強い思いで、大阪府立大学の先生方にご協力いただき、アカデミックな側面からも解明していこうと研究を続けています。
社会問題の中で何が⾃分たちにできるか考え、
⽣産に関わることで貢献していく。
——お客様への貢献で実現したいこと
田七人参に限らず、食糧問題やエネルギー問題を解決する、大きな社会の支えとなるような新しい素材の栽培や製品づくりをしていくことです。ただ素材を仕入れて売るのではなく、自分たちが一から栽培に関わって生産するということをやって社会貢献をしていく。それが結果として、お客様への貢献になると思います。
一から関わって生産すると、その素材が何なのか?ということを知ることができます。成分分析を行い素材を丸裸にできるからこそ、「これがいいんだ」と自信を持って言うことができます。
社会問題の解決に関わり、そして健康に貢献できるものを、⾃分たちが積極的に素材の栽培に関わってお客様に提供することが、信頼の礎になると考えています。